前回の記事 バイデン政権誕生と今後の米国雇用情勢 にて、米国新政権が年間12週間の有給家族休暇(介護・子育て)とシックリーブ(傷病休暇)の法案を掲げていることをご紹介をしましたね。
こちらに関して、「そもそもアメリカの産休・育休制度はどんな現状なの?」という質問を数多く頂戴しました。
今回は米国の産休・育休について、解説していきたいと思います。
まずは導入までに、日本の制度をおさらいしながら比較の判断材料にしていきましょう。 厚生労働省は、以下の通りの制度を掲げています。
日本では、産前から育児までの期間をあわせて最大で約2年3ヶ月の休暇を取得することができます。
種類 | 日数 | 条件 |
---|---|---|
産前 休業 |
出産予定日の6週(42日)前から適応 ※双子など多胎の場合、14週(98日)前から | 出産予定のすべての女性が取得できる制度だが、取得は任意制な為取得しないことも可能 |
産後 休業 |
出産翌日から8週(56日)まで適応 | 取得は法で定められた強制的なもので、産後のすべての女性が取得しなければならない ※本人が請求し医師が許可を出した場合、6週(42日)後から勤務可能 |
育児 休業 |
子どもが1歳になるまで適応 ※配偶者の病気/保育所が見つからないなど復職が難しい場合、最大2歳になるまで延長が可能 |
取得は任意制で、男女(父母)ともに対象となる ※以下取得条件を満たしている必要がある ①同一事業主に継続して1年以上勤務している ②子どもの1歳の誕生日以降も引き続き雇用されることが見込まれる ③契約社員の場合、子どもの2歳の誕生日の前々日までに契約が解除されない |
家族が増えるのは、とっても喜ばしいことですね。しかし、出費がかさむ出産・育児。現在の日本の制度では、自然分娩の場合、出産に伴う費用は公的医療制度の対象にならず全額自己負担になります。
一方で休暇期間取得中には、給与を支給する企業はごく一握りであるため、多くの方が雇用先からの継続した収入確保は望めないと言えます。
このような出産・育児における各家庭の経済的負担を減らす為、日本では様々な制度が設けられています。
公益社団法人 国民健康保険中央会によると、出産にかかる医療費の平均値は約50万円。よって、下記の給付金がその大部分をカバーしてくれることになります
種類 | 金額 | 条件 |
---|---|---|
出産 育児 一時金 |
分娩費用の補助として、各家庭一児につき42万円/を支給 ※非課税 | ●基本的に全国民が受給可能●会社に雇用されている人は企業の健康保険から、個人事業主は国民健康保険から支給 ※妊娠4ヵ月(85日)以上の早産・流産・死産・人工妊娠中絶も含む |
出産 手当金 |
出産のため仕事を休んでいた期間の生活費の補助として、支給開始以前の給与を基に計算した既定額を支給 ※非課税 | ●妊娠による休暇を取得する妊婦のみが支給対象で、父親は受取不可 ●雇用先で加入している健康保険から支払われる為、個人事業主は受取不可 |
育児 休業 |
育児のため仕事を休んでいた期間の生活費の補助として、支給開始以前の給与の67%(6ヶ月経過後は50%)を支給 ※非課税 | ●父親も受給可 ●共働きの場合夫婦同時の受給も可 ●雇用先で加入している健康保険から支払われる為、個人事業主は受取不可 |
その他 | 0歳以上中学卒業までの児童が対象に月15,000円に児童手当支給小学校もしくは中学校卒業程度まで医療費の全額補助もしくは一部補助 ※自治体により異なる 等 |
では、本題のアメリカの制度を見ていきましょう。
「アメリカは労働者の立場が守られていて、日本よりも雇用に関する法が整っている国。だから産休・育休制度も充実しているはず!」
米国の労働や雇用に知識がある多くの方は、そのように思われているのでは。
さて、いかがでしょうか?今回も例に倣い、連邦レベル・州レベルに分けて見ていきます。
アメリカには、国レベルの出産・育児専用の休暇制度というものは残念ながら存在しません。それにあたる/それに近いものがFMLA(The Family and Medical Leave丨育児介護休業法)です。
取得には以下の条件ならび注意事項を満たしている必要があります。
冒頭のバイデン新政権の法案は、こちらの連邦レベルのFMLAを、無給から有給に変えようという動きであると言うことですね。 あわせて、条件面の見直しを望む方も多いのではないでしょうか。条件の厳しさ故に、実に40%近くの労働者が取得できていない現状にあるという調査結果も出ています。
カリフォルニアは最もサポートが充実している州の一つですが、その分非常に複雑でもあります。以下の表が、4種の休暇制度の概要把握に役立てば幸いです。
種類 | 期間 | 金額 | 条件 |
---|---|---|---|
PregnancyDisabilityLeave | 最大4ヶ月間 | 無給 | ●妊娠により働けず収入が減った女性(母親)が対象●従業員が5人以上いる企業に勤務している |
CalifoniaFamilyRightsAct | 最大12週間 | 無給 | ●過去12ヶ月以内に出産もしくは養子を通して子どもを迎え入れた男女(父母)に適応●従業員が5人以上いる企業に勤務している●●現在の雇用先で12ヶ月以上勤続している ●現在の雇用先で過去12ヶ月で1250時間(平均24/週)勤務している ●従業員が5人以上いる企業に勤務している |
StateDisablityInsurance | 産前に最大4週間、産後に最大6週間 | 給与の約60~70%を支給最大で$1,357/週※ただし、課税対象 | ●出産により働けず収入が減った女性(母親)が対象●過去5~18ヶ月にSDI(州障害保険料)を支払っている | PaidFamilyLeave | 12ヶ月のうちに8週間取得可能 | 上記同様 | ●過去12ヶ月以内に出産もしくは養子を通して子どもを迎え入れた男女(父母)に適応 ●過去5~18ヶ月にSDI(州障害保険料)を支払っている |
いかがでしたか?日米を比較するだけでも、アメリカの産休・育休制度は決して充実しているとは言いがたいですね。
OECD(経済協力開発機構)の2018年の調べによると、世界的に見ても産休・育休日数はアメリカは最低水準だと言えます。
補助が少ないことに加え、医療費が非常に高いアメリカ。4人に1人の女性が産後2週間以内に職場復帰しているとの調査結果も出ています。
仕事の家庭との両立を目指した労働環境の見直しが進む昨今、会社特有の産休・育休制度を設ける企業も増えてきました。
以下は有給の産休・育休(Maternity/Parental Leave)を福利厚生として提供している会社の例です。
また補足までに、以下のような福利厚生を導入している企業もあります。