バイデン政権誕生と今後の米国雇用情勢


1月20日米国首都ワシントンで 大統領就任式が行われ、民主党のジョー・バイデン氏がアメリカ第46代大統領に正式に就任しましたね。例年以上に熾烈であった今回の大統領選には、皆様強い関心を持たれていたことかと思います。


本記事では、「雇用」「ジョブマーケット」に焦点をあて、予測しうる今後のアメリカ情勢をまとめていきたいと思います。

1. 移民保護と多様性の促進

移民に対するマニフェストには、日系企業や在米日本人の皆様も特に注目しており、既に認識されているかもしれませんね。

バイデン新政権は、「移民の持つユニークなスキルや伝統は米国成長の原動力で国の根幹を成すもの」とし、トランプ前政権下で進んだ移民に対する厳しい政策の転換を公約しています。 一例として、掲げている政策を見てみましょう。

非移民ビザ労働プログラムの改革

Lビザ、Eビザ、Hビザ、Oビザなど就労向けの非移民ビザに関して、制限の緩和を目指しています。具体的な内容は2021年2月現在発表はされておらず、今後の政府の方針や裁判情報に注意したいところです。
最も注目されているH-1Bビザに関しては、以下の内容が移民法専門家の間で予測されています。

対象 内容
申請者 2020年11月にトランプ前政権下で発表された「H-1Bの無作為の抽選を取止め、給与が高い者を優先に選ぶ方針」は、ビザの取得を困難にしているとし、バイデン政権はこの法律の発効を60日間延期する見通し。従って2021年3月9日づけで有効とはならず、2021年度3月のH-1B登録期間にはこの法律は適用されないと予想。
雇用主 2020年10月に発表された雇用主の新定義・拡大解釈「顧客先など第三社で勤務する場合、第三社も雇用主とみなされ、共にH-1Bを申請しなければならないという既定」は、取下げられる見通し。

DVプログラムの継続と見直し

トランプ政権下で廃止の対象とされていたDV(米国永住権抽選)プログラム、通称グリーンカードロッタリー。新政権では継続に加え、永住権発給数を年間55,000件から80,000件へと約1.5倍拡大することを法案として提出しています。
※DVプログラムに関して詳しく知りたい方は、 こちらから。

その他

  • オバマ政権により導入された DACAプログラム(幼少期に親に連れられ不法入国した移民たちの強制送還を猶予する政策)の復活・通称「ドリーマー」の学資支援
  • 米国帰化申請(市民権取得)手続きの改善・審査の迅速化・申請料値上げの不実施
  • Social Security Numberを保持していない国内の約440万人に対してのロードマップ策定(就労・納税そして市民権取得の為の法整備)

トランプ前政権時代、ビザ規制による影響を受けた在米日系企業や米国で活躍する日本国籍の方から悲痛の声を沢山聞きました。この変化は朗報と言えますね。インド系の移民人材を豊富に抱えるGoogleをはじめ、Uber、Amazonもバイデン政権の移民政策支持を表明しています。

2. 労働者の権利拡大と経済格差是正

”Build Back Better”「より良い復興の実現へ」というスローガンの下、労働者(中間層・ミドルクラス)の労働を報い、そして雇用創出ならび経済の建て直しを強調しています。

最低賃金の引き上げ

過去のこちらの記事でご紹介した通り、2009年に制定されて以来2021年2月現在も、連邦の最低賃金は$7.25/時間です。バイデン新政権では、これを2026年までに$15.00/時間へと引き上げる方針を議会に求めています。

参照:U.S. DEPARTMENT OF LABOR丨State Minimum Wage Laws

有給休暇制度の義務化

女性を含む社会的弱者の権利拡大を目指し、福祉の面でも整備を進める意向です。具体的には、年間12週間の有給家族休暇(介護・子育て)とシックリーブ(傷病休暇)の取得確保の政策を掲げています。

その他

  • 労働者の労働組合加入促進ならび団結権、団体交渉権の強化
  • 黒人やヒスパニック(中南米系)が経営する中小企業向けの公的な資金支援
  • 政府調達で米国製品を優先する「バイ・アメリカン」政策のもと国内製造業の支援と雇用創出
  • オバマケアをもとに「バイデンケア」とし、国民の医療保険加入の促進や低所得者向けの公的医療保険「メディケイド」の加入要件見直し

最低賃金は現行の2倍以上になる、など総合的に大胆な計画と言えますね。企業にとってはコスト面で負担が増えるという声もある一方で、既に多くの州がこの額面に近い金額を導入していることや、今日のインフレ経済により2026年までには同額面へ必然的に到達する州も多いという点から、影響はそこまで大きくないのではという見方もあります。

3. 新型コロナウイルス(COVID-19)対策の強化

マスク着用義務化

国民に100日間のマスク着用を呼びかけると同時に、連邦政府の管理する施設ならび空港や公共交通機関でのマスク着用を義務化する大統領令に署名しました。周知の通り、「マスクの強要=人権の侵害」との考え方も存在するアメリカですが、連邦政府によって義務付けられることで、規則に強制力を持たせることが可能となります。

渡航規制の実施

空路で米国に入国する渡航者に自主隔離を義務付けたほか、出発前3日以内に受けた検査の陰性証明書または感染から回復したことを証明する診断書の提示が義務付けられました。

コロナ禍、日米の行き来やその他海外へのビジネス出張をされる方は決して多くないかと思いますが、対象となる方は注意が必要です。

ワクチン接種への姿勢

「雇用主が従業員に対しワクチン接種を義務付ける権利」があるかどうかについては活発に議論が行われ、現在の労働市場では最もホットなトピックのひとつです。

政府機関からの正式な発表はされていないものの、バイデン氏はこれまでのところ「接種は義務化しない」姿勢を示しています。

米大手調査会社ピュー・リサーチ・センターの2020年後半の調査結果によると、回答者の半数近くが「コロナワクチンの接種を絶対に、もしくはおそらく受けない」と答えており、安全性に疑問を抱く国民が多いことが背景だと考えられます。

一方参考までに、米労働安全衛生局(OSHA)は過去に、雇用主にはワクチン接種を義務付ける権利があるとの立場を示しています。理論的にも義務化は可能であり、実際にインフルエンザのワクチン義務化を導入(ただし、宗教上・健康上の理由がある者は対象外とする)ている企業や学校も既に存在します。

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全体を通して、今後様々な側面での動きが予想し得るということ、以後の政府の発表に注意を払う必要があると言えそうです。企業の皆様はEmployee Handbookのアップデートもマストとなる可能性も高そうです。
そして何より、ジョブマーケットの好転を祈るばかりです!

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