「採用予定者のオファー額設定にあたり、過去の源泉徴収の提出をお願いしたいです。」
初めて米国で採用をする日系企業の人事担当者様よりこのような依頼を受け、目が飛び出るほど驚いたことがあります。
多文化、多人種、多言語が共生する国アメリカ。人種のるつぼであるが故に、至極強い「公平性」への意識。それが顕著となる人事慣習のひとつに、給与に関するものがいくつか挙げられます。
今回は2023年1月1日よりカリフォルニアで施行となったことで話題にもなっている「給与透明化法 (Pay Transparency Act)」も含めた、米国のサラリー関連の情報を一挙ご紹介します。
米国国勢調査局(U.S. Census Bureau)の調べによると、2022年の男女格差は以下左の図の通り。国平均だと男性が稼ぐ1ドルに対し、女性は82セントと発表されています。
格差は年々小さくなっているものの、依然として約20%の差があるのは大きな数字と言えそうです。
画像引用:business.org
この他にも注目すべき格差として、以下のようなものが挙げらるようです。
参照:Compass
上記のような様々な格差是正を目指し、アメリカでは以下のような給与にまつわる法律が制定されています。
読んで字の如く「給与履歴を問うことを禁止」する法律です。
2016年にマサチューセッツ州での施行を機に全米に広がり、現在以下20以上の自治体で適用。
今後もさらに広がっていくと考えられています。
内容はいたってシンプルで、選考過程において雇用主は求職者に対し、過去ならび現在の給与を聞いてはいけないというルールとなります。
これは、「雇用主が求職者の給与履歴情報を入手した場合、自ずと低い給与額を提示するであろう」ことから、永続的な低賃金のループを解消することを目的としています。
リーマンショックの余波が続いていたこととも相俟って、格差是正の為に米国中に急速に広まった経緯があると言われています。
上記に続き、近年各地で推進されているのがこちらの法律。
読者様の多いであろう地域で言うと、2022年11月にニューヨーク市にて、2023年1月にカリフォルニア州にて施行となりました。
雇用主は、新規採用又は社内昇進・異動に関する全ての広告・掲載において、給与範囲を開示しなければならないというルールとなります。
これまでDOE(Depends On Experience | 経験値による)などと曖昧にされがちだった給与情報。今後は、その範囲を明確に記載することが求められます。そうすることで、政府が提唱する「同一賃金同一労働」を目指そうという試みです。
言うまでもないことですが、何をしてはいけないのか、何をしなくてはいけないのか、まずはしっかりと認識したいですね。
特に米国での採用に慣れていない企業様は、悪気なく冒頭のような依頼をしてしまうこともあるかもしれません。しかしこれは、訴訟や罰金などビジネスそのものに大きな痛手となる可能性も十分にあります。
上記では各法律の大枠の概要をご紹介しましたものの、州・郡・市によって細かい規定が定められています。法律を正しく理解した上で、採用活動に挑みたいものです。
「法律を遵守すればいいのであろう!」と、感覚に基づいた給与を設定し情報を公開するというアクションを取りたくなる気持ちも分かります。しかし残念ながら、小手先では対応しきれない問題が後々浮上する可能性もあるのではないでしょうか。
例えば求職者からの以下のような質問に対し、理にかなった回答をすることが求めらます。給与のテーブル、キャリアのシュミレーションなど、詳細な事項を網羅した給与体系の設計が重要だと考えられます。