「正社員を探しています」
「正社員を希望します」
― アメリカに進出してきたばかりの企業や、はじめてアメリカで仕事探しをする求職者からよく聞く言葉のひとつです。
「正社員」という言葉は、一般的に日本では「非正規社員」と分けて使われる言葉で、労働期間の定めがないことやフルタイムであることを指すようですが、アメリカにはあまり適応しにくい概念のように思います。
雇用・就労を語る上で基本中の基本でありながらも、意外に複雑なアメリカの雇用形態。今回は、各カテゴリに分けて解説していきます。
まずは、最も馴染みのあるものから。
就労時間を軸にした場合、以下2つの雇用形態に分類することができますね。
フルタイム(Full Time) | パートタイム(Part Time) |
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週に40時間就労する労働者 | 週に40時間以下就労する労働者 |
例えば、時給で働いている方が年収を概算したい場合は
という計算式を用いるのが一般的です。
これだけ知っておけば問題ないかと思いますが、あえて補足をするとすれば、実はフルタイム・パートタイムの法的な定義は存在しないということ。Fair Labor Standards Act(公正労働基準法)は、雇用主が自由に線引をできるとしています。
また少し本題からは脱線しますが、オバマケア(Affordable Care Act 丨医療保険制度)の観点においてIRS(アメリカ合衆国内国歳入庁)は平均で週30時間/月130時間を就労する者をフルタイムとカテゴライズしています。
例えば、パートタイムとして雇用主に採用されてはいるものの、上記の条件を満たしている為、健康保険のステータスはフルタイムであり保険の受給資格を得られる、というケースもあります。
もうひとつ、認知度が高く理解がしやすいものを紹介しましょう。
雇用先を軸にした場合、以下2つの雇用形態に分類することができます。
直接雇用(Direct Hire) | 派遣(Temporary Staff) |
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勤務先の企業に直接雇用され、その企業から直接給与を受け取る形態 | 人材派遣会社に雇用され派遣先企業で勤務し、派遣会社を通し給与を受け取る形態 |
会社の一員としての長期的なコミットメントを求める場合は、直接雇用一択となるでしょう。ただ以下のような特定の状況下では、派遣社員の採用が適していると考えられます。
次に最近注目を集めている分類を見ていきましょう。
簡単に言えば、「中の人材なのか外の人材なのか」ということ。上記でふれた派遣社員も外の人材という位置付けと言えますが、ここでは税務的な観点から分類した以下の2つに関し説明したいと思います。
従業員(Employee) | 個人事業主(Independent Contractor) |
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企業に直接雇用され、従業員つまりインソースの人材として勤務 | コントラクター(日本語だと、フリーランスという言葉をよく使いますね)としてアウトソースの人材として勤務 |
給与から必要な税金が天引きされ源泉徴収票としてForm W-2を使用 | 企業がサービスを受けた対価として支払った総額を報告する申請書Form 1099を使用 |
労働者として国に納めるべき税金の半分を雇用主が負担 Social Security=Gross給与の6.2% Medicare=Gross給与の1.45% | 労働者として国に納めるべき税金の全額を自身が負担 Social Security=Gross給与の12.4% Medicare=Gross給与の2.9% |
さて、なぜこの分類が話題となっているのでしょうか。
2019年Uberのドライバーが、従業員としての権利を主張し集団訴訟を起こしました。これを以ち、カリフォルニア州では2020年からこの分類を、より明確かつ厳格化することを決定。
この新しいルールAB5(Assembly Bill 5)では、個人事業主としてみなされるには以下「ABCテスト」の3つ条件すべてを満たす必要があるとしました。
近年ITの進歩によるギグ・ワーク(スキマ時間に働くこと)が浸透し、UberやLyftを代表としたギグ・エコノミーが経済全体を支えていると言っても過言ではないですね。アメリカでは100万人近くもの人がシェアライドドライバーとして登録しているとも言われています。
そこで、予てから労働者の権利保護に積極的であったカリフォルニア州は、世界に先駆けてこの問題に着手したのです。
この法令の設定後カリフォルニアでは類似の訴訟例が頻発している他、この動きは今後他州や世界にも拡がると考えられており、今後も動向を追う必要がありそうです。
残業代を軸にし、「残業代が支払われるか支払われないか」で以下の線引がされます。
Exempt(エグゼンプト) | Non Exempt(ノンエグゼンプト) |
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残業手当から除外される労働者 | 残業手当の支払い対象となる労働者 |
※これは、従業員(会社に雇用されているインソース人材)のみを対象とした分類となります。
一見簡単ではありますが、非常に細かいルールがあること、またそのルールが自治体によって異なり、かつ頻繁に改正されることから、混乱を招きがちです。
Fair Labor Standards Act(公正労働基準法)は、以下にあたるポジションをExemptポジションにできるとしています。
また上記に加え、各職務内容にそれぞれに細かい規定があり、テストの条件を満たす必要があります。その一部を紹介致します。
上記さえ守れば問題ない、と言いたいところですが、これだけでは不十分。補足を2点しましょう。
まずひとつは、各州の規定です。
アメリカでは連邦法と州法があること、内容が異なる場合雇用者は最も厳しい法律に従わなくてはいけないことは [アメリカの最低賃金] の記事内でもご紹介しましたね。主要な州の例を以下にて紹介します。
州 | 境界線となる給与 |
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カリフォルニア | ■ 従業員が25名以下の場合:$49,920/年 ■ 従業員が26名以上の場合:$54,080/年 |
ニューヨーク | ■ ニューヨーク市:$58,500/年 ■ ウェストチェスター/ナッソー/サフォーク郡:$50,700/年 ■ それ以外の郡:$46,020/年 |
テキサス・アリゾナ ワシントン・ハワイ ミシガン・ミネソタ | $35,568/年 ※ワシントン州では、2028年までに$83,356/年までに段階的に上昇することがすでに計画されています。 |
そして最後に。
最近では「コンピューター専門職」向けに別途規定を設ける動きも出てきています。昨今のIT化の追風を受け、需要が高く業務ボリュームも大きいことが背景でしょう。
例えばカリフォルニア州では、以下をルールとしています。