ダイバーシティだけではもう古い?
HR先進国アメリカに学ぶ「DEI」



アメリカ発祥の概念「ダイバーシティ(多様性)」。

1960〜70年頃、女性や有色人種などのマイノリティーの地位向上・差別撤廃を求める声が高まったのことを機に、社会に徐々に浸透していきました。

日本でこの考え方が導入され始めたのは、2000年代以降。20年以上経った今日、概念として浸透しているかはさておき、言葉の認知度自体は少しずつ定着してきたよう感じます。

人事の最前線米国では、「ダイバーシティ(多様性)」を含む「DEI」が近年のトレンドワードとなっています。企業が経営戦略の最重要課題として掲げる、注目の「DEI推進」とは?
今回は、その真相に迫ります。

1. DEIとは

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DEIとは、 Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)の3つの言葉の頭文字を取った言葉です。

2015年9月の国連総会にて、加盟国全193ヶ国が同意し採択された「SDGs: Sustainable Development Goals」の軸のひとつでもある「DEI」。これは、2030年までに人類が理想とする「誰一人取り残さない、持続可能で多様性と包摂性のある社会」を実現するために掲げられた、世界共通の国際目標です。

世界全体で「DEI」の意識がいかに高まっているか、お分かりいただけるのではないでしょうか。

2. D&Iから、DEIへ

冒頭にも述べた通り、社会の追い風を機に1990年代に世の中に広まったのが以下の2つの言葉から成る「D&I」という考え方です。

Diversity│ダイバーシティ・多様性
性別、年齢、人種や国籍、障がいの有無、性的指向、宗教・信条、価値観などの表面的な要素に加え、文化、価値観や考え方などの深層的な要素も含む多様性のこと。 またこれらを取り入れることで、企業の成長、そして個人の幸せを同時に目指す考え方。
Inclusion│インクルージョン・包括性
直訳すると、包み込むという意味。ビジネスの場では、多様な人材が組織に存在しているだけでなく、多種多様な価値観や考え方が認められ活かされている状態のこと。


昨今ここに、新たにもう一文字Eを加えた概念の導入が、大手企業を中心に見られ始めました。これが「DEI」です。

Equity │ イクイティ・公平性
あらゆる人々の待遇、アクセス、機会、昇進における公正性、そして一部のグループの完全な社会参加を妨げている障壁を特定し排除するための取組みを表す言葉。


「差別をなくし平等にするだけでは、不平等の壁は消えない。個々の差を考慮し、公平性が与えられて初めて、多様性のある組織を作ることができる」という認識が、欧米諸国で深まり始めたことが背景にあります。
イメージが湧きにくい、という声を多く耳にします。少し補足解説をしましょう。

似て非なる言葉 Equality(イクオリティ・平等性)と比較をした以下の図をご覧ください。

身長差のある3人が野球観戦をしています。
左の絵では、同じ高さの(つまり、平等な)踏み台を一人一台渡されれているものの、一番背の低い人は観戦することができていませんね。右の絵では、それぞれの身長を考慮し踏み台の数を調整することで、皆が問題なく観戦できている様子が描かれています。

「公平であるからこそ、平等を得ることができるようになる」というのが、Equityの考え方です。

3. 企業におけるDEI

日本の現状

DEIの重要な要素のひとつ、男女格差を例にとって、日本の現状を探ってみましょう。
以下は、世界経済フォーラムが2021年3月に公表した、各国における男女格差を測るジェンダーギャップ指数(Gender Gap Index:GGI)です。

日本は153カ国中120位──。先進国の中で最低レベルであるだけでなく、韓国や中国、ASEAN諸国より低い結果となっています。日本は、世界に大きく遅れを取っていると言って良さそうですね。

これは戦後に生まれた固定的なジェンダー役割意識と、男性中心の社会構造からくるアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)が根深く残っていることが大きな要因だと考えられています。

取り組み事例

そんな中、日本国内でも大手企業やテック系カンパニーを中心に、DEI促進の動きが多く見られ始めました。会社ホームページ内にDEI専用のページを設けている企業も多く存在します。気になる企業があればぜひ調べてみてはいかがでしょうか。

以下にて、日本国内外の日系企業の取り組み事例を紹介します。

          
ロゴ 会社名 取り組み
Toyota North America● 米国大手企業を対象としたダイバーシティ・ランキングでは上位7位に、唯一の日系企業としてランクイン。
● D&Iレポートを毎年発行。その年に活動例や、具体的な数値結果を紹介。
● 社内の女性の立場向上を目指す取り組み #SheDrives を2019年に開始。2年間で、役職の女性の数を2倍以上に増やすことに成功。また、フィールドセールスの管理職プログラムを見直し、入社3年目までの女性の離職率を0%に改善。
メルカリ    ● 2020年に日本国内でD&Iアワードにてスタートアップ部門の大賞を受賞。
● D&I Councilという社内委員会を設立。D&Iの課題発見と解決のためコンサルテーションを行うという、第三者機関的な役割を担う。
● マイノリティ向けにソフトエンジニア育成やインターンシップの機会提供や、復職するメンバーの支援施策を展開。
積水ハウス● 2020年に日本国内でD&Iアワードに大企業部門の大賞を受賞。
● 毎年6月をダイバーシティ月間と定め、メンバー間でアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)などについて話し合う機会を設置。
● 2019年から男性育休取得率100%を継続。さらに9月19日を「育休を考える日」とし、毎年「男性育休フォーラム」を開催し啓発に努める。
パナソニック● 「健全なカルチャーの一丁目一番地がDEIの活動になる」とし、DEIを企業変革の重要な柱として制定。。
● LGBTQの人たちの活動を支援する団体「アライ」や、サポートイベント「東京レインボープライド」への協賛。
● ジェンダーギャップを解消し、女性基幹職の比率を2035年に30%にするための取り組みを開始。
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予測不可能なVUCA時代(ブーカ│Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)を生きる我々にとって、個々の違いを受け入れ、認め合い、活かしていくことは必要不可欠です。DEIの概念が更に浸透し、皆が活き活きと働ける世の中となっていけば嬉しいですね。

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