ここ最近、アメリカ進出に際した採用サポートのご相談の数がまた増えてきました。パンデミックの影響で保留していたビジネス展開を、再開したいという企業様が多いようです。
アメリカの採用習慣を説明させていただく中で、理解に苦労される方が多いのが「Job Description」の重要性です。今回は原点に立ち返り、米国の採用の基礎ジョブディスクリプションについて紐解いていきましょう。
ジョブディスクリプション(JD │ Job Description)とは、日本語では「職務記述書」と訳されることが多いです。言葉の通り、そのポジションの職務内容を記載した雇用管理文書となります。
これを以下のような、求人票や募集要項と同等のものだと考える方が多いようですが、残念ながらそうではありません。
転職大国アメリカの記事内でも紹介した通り、ジョブ型雇用のアメリカでは、職務内容や条件を明確に定めた上で雇用契約を結びます。つまり、ジョブディスクリプションに書いていない業務=担当業務範囲外だということ。もしJDに記載のない業務を依頼すれば、「This is not my job!」と断られることも決してめずらしいことではありません。
臨機応変に対応してほしい、という雇用主目線の気持ちもよく分かります。また「Wear different hats(いろいろな帽子をかぶる=様々な役割を担う)」という英語の慣用句が存在するよう、仕事をする上での柔軟性の大切さを理解している人材も沢山います。
ただ、幅広い業務に対応できるジェネラリストが評価される日本と異なり、専門性を持って従事するスペシャリストを目指すことがアメリカでは一般的だということを、改めて念頭に置いて頂ければと思います。
業務内容を明確にすること以外にも、下記のような場面でジョブディスクリプションは効果的です。
従業員一人一人が自身のやるべきことを理解した上で動ける為、組織全体の生産性アップが期待できます。また、「ひとつ昇格したポジションでは、どのような業務を担当するのか?」「お給与はどれだけアップするのか?」などプロモーションに対する明確なビジョンを持て、モチベーションの維持・リテンションレート(定着率)の向上にも繋がるのではないでしょうか。
大手求人サイトindeedは上記の通り、ジョブディスクリプションが候補者への訴求に大きなインパクトを及ぼすとの調査結果を発表しています。
また業務の曖昧さを回避し、求めるスキルを明確に記載することで、よりマッチ度の高い候補者へアピールすることもできるでしょう。
ジョブディスクリプションに記載された内容が、評価における明確な判断基準となります。主観的な評価を避け、公平性を保つことに役立つと言えます。
不運にも成績の悪い従業員を降格や解雇しなければならない場合、ジョブディスクリプションを基に期待値のズレを明確にすることができます。つまり評価の公平性を説明する資料としても有効で、「不当な評価を受けた」「差別を受けた」という訴訟のリスクも軽減できると言えます。会社を守る為に、訴訟大国アメリカではなくてはならないものなのです。
※参考記事:解雇は珍しくはない。でも「解雇は簡単」は間違い!
下記のような内容で構成されるジョブディスクリプション。
「やっぱり募集要項と変わらないじゃないか!」と思う方もいるかもしれませんね。これらに含まれる内容の中から、アメリカならではの例をいくつかご紹介しましょう。
そのポジションの上司・報告相手は誰なのかをはっきりと記載します。
「アメリカの会社って上下関係がなく、フラットでカジュアルな雰囲気なんでしょう?」
おそらく多くの人が映画などを観て、そんなイメージを持っているのではないでしょうか。目上の人だとしてもファーストネームで呼び、会議では誰もが発言権を持ち活発な議論が行われる。日本のオフィスとはまるで正反対な環境を思い描く方が多いと予想します。
確かにこういった雰囲気は米国のオフィスの特徴のひとつでしょう。しかしこれはあくまで、アメリカという国の文化や国民性の反映であり、組織の構図を示したものではないように思います。
「アメリカこそが真の縦社会だ」
米国生活が長い場合、そんな風に感じる方が多いはず。実力主義のアメリカ。組織には厳格な序列・ヒエラルキーが存在します。そして、「僕の上司は○○部長だから、隣の部署の△△課長の指示には従いません!」なんてこともめずらしいことではないのです。
上記と同様の理由で、権限の有無とその範囲を業務内容の欄に含むことが一般的です。
例えば、部下はいるのか、採用の決定権を持つのか、評価の裁量権はあるのか、などが挙げられます。
最後にご紹介したいのが、身体や環境に関わる外的な要件について。
もしかすると、日本の方にとっては最も馴染みのない内容かもしれませんが、非常に大切です。
肉体労働の有無(オフィスワークだとしても必要に応じ記載)、出張の頻度、ユニフォームや業務環境(騒音レベルなど)などを記します。またこれらの記載は、ひいては障がい者差別の防止にもつながります。