
”スキルが富を生む時代が訪れた”
近年、アメリカの労働市場で静かに、しかし確実に起きている変化があります。
それは、スキル職と呼ばれるブルーカラー領域の価値が急上昇しているということ。
建設業、配管、電気工事、溶接、物流、太陽光設備──
かつては「専門性はあるが収入は限定的」と言われた職種で、
独立・企業化を通じて年収 100万ドル(約1.6億円)を超える成功者が次々と現れています。
米Forbes や CNBC では、こうした人々を“Blue-Collar Billionaires(ブルーカラービリオネア)” と呼び、「地位よりもスキルが価値になる時代」と紹介しています。
社会は変わり、成功の形も変わりつつある。
今回は、アメリカの労働市場で広がるこの新しい潮流に焦点を当てていきます。

実際にどれ程の変化が起きているのか・・・?まず、賃金データを確認してみましょう。
まずは、BLS(米国労働統計局)の統計によると、以下の建設・設備管理系スキル職は、過去4年間で平均 10% 前後の賃金上昇を記録。これは同期間のホワイトカラー平均賃金上昇(約5〜6%)を大きく上回る伸びです。

さらに、以下のような調査も並行して報告されています。

①参照:
Associated Builders and Contractors | 2024 Construction Workforce Shortage Tops Half a Million
②参照:
Dump Truck Dispatcher | How Much Do Owner-Operators Make in Trucking Industry?
③参照:
Bureau of Labor Statistics | Occupational Outlook Handbook
加えて近年注目されているのが、スキル × 起業で成功する人たち。
こうした事例は Business Insider などのメディアでも多く紹介されています。
つまり、特別な学歴や大企業でのキャリアではなく、
「手に職」+「ニッチ市場」+「需要の高まり」
この3つの掛け算が、富を生み出す構造が生まれつつあるのです。

「大卒=安定したホワイトカラー職」というこれまでの前提が揺らぎ、学歴<実務スキルへと価値観の転換が進んでいるのかもしれません・・・。その背景には、考えられる要因がいくつかあります。
米国では 40%以上の若者が大学進学する一方で、新卒ホワイトカラー求人は減少傾向。
一方で、進学に伴う金銭的な重みは増す一方。
学業投資に見合う給与が得られない今、学歴の価値自体が相対的に低下しつつあるのかもしれません。
*1) 参照:
Education Data Initiative | Student Loan Debt Statistics
*2) 参照:
FEDERAL RESERVE BANK of NEW YORK | HOUSEHOLD DEBT AND CREDIT REPORT 2024
ベビーブーマーの比率が非常に高いことが特徴である技術職。毎日約10,000人が65歳に到達している(*3)アメリカでは現在、経験豊富な人材の抜け落ちが顕著です。
一方で先述の通り、米国が1990年から推進してきた「College for All = 大学進学こそ成功」という概念により、若者のスキル職への流入が減り続けているのも確か。
退職者増 × 若手の参入低迷で慢性的な人材不足が続いているのですね。
*3) 参照: US Census Bureau | By 2030, All Baby Boomers Will Be Age 65 or Older<
昨今のAIの台頭により、日々変わる労働市場。
その例として、McKinsey社が2024年に発表したレポートによると、事務職・カスタマーサポート、一般的なオフィス業務など “ルーティン or 認知業務中心のホワイトカラー職” の需要が低下する可能性に言及されています。
「学歴だけ」では職が守れない時代が近づいてきているのかもしれません。
*4) 参照: McKinsey Global Institute | The race to deploy AI and raise skills in Europe and beyond<

私たちSTS Careerのようにホワイトカラー職(オフィス職)を中心に支援しているリクルーターにとっても、このブルーカラーの台頭は決して他人事ではありません。
なぜなら「仕事の価値が“地位”から“スキル”へとシフトしている」という、労働市場全体の変化を示しているからです。
この流れは、ホワイトカラー人材にも次のような示唆を与えてくれています。
今回のブルーカラーの台頭は、決してホワイトカラーの衰退を意味する訳ではありません。
むしろこれは、地位や学歴ではなく、スキルで正しく評価される公平な市場が広がりつつあるという非常に前向きなサインとも言えるでしょう。
アメリカで働くという選択は、決して簡単ではありません。
けれど、変化が大きい今だからこそ、どんな環境でも通用する自分を育てていきたいですね。
